鎌倉高校の何気無い日常 2







   「え〜、本校の入学試験関連の議題は以上です。
    では、次の議題ですが……、コホン……、こ、これは」



   「教頭? どうしたんだね?」



   「え〜、この案件は、それでは、家庭科の新井先生からお願いします」



家庭科の新井教諭が立ち上がった。

その途端に職員室の空気が一変し、緊張が張りつめた。



   「では…。え〜、今学期の2学年の調理実習の献立ですが」



   「ま、またやるのかね!」



悲鳴とも聞こえる校長の声に、職員室の多くの教員が頷いた。



   「2学期にあんなことがあったというのに、また……。教育委員会への報告に何度出向いたと」



   「校長先生。今回は、秘策があります」



   「秘策?」



説明を始めた新井教諭は一人の生徒の、職員会議への参加許可を校長に要請した。



   「誰だね? その生徒というのは?」



   「春日望美さんの幼なじみ、同じクラスの有川将臣君です」



   「何故、彼を?」



   「実は」











3学期の調理実習の実施予定日が近付いてきた。
業者への発注の期限は目前に迫っている。
年間指導計画や対外的に公表しているシラバスにも、2学年は2度の調理実習が明記されている。
しかし……。
家庭科の教員チーム(といっても2人だが)はどうして良いか分からなかった。



   「どうしましょう……」



   「何も名案が浮かばないわね…」



   「彼女は何も悪くないのよ」



   「それは分かってるわ。前回の実習で彼女の一部始終を注意して見ていたから、間違いない」



   「なのに…」



   「何でなんだろう…」



職員室の隅で考え込む2人に、



   「OK、俺に1つ、いい考えがあるんだけどな」



と、有川将臣が話しかけてきた。



入学時から学年の兄貴的存在として、男子生徒に人気のある生徒ではあった。
この冬休みに短期留学に行っていたという話だが、
留学先でどんな経験をして来たのか、新学期になって随分と雰囲気が変わったともっぱら評判の生徒だ。
「語学留学としての成果は、無かったようだが」…これは英語科の教員の話である。



高校生くらいの年頃は、急に成長したり、急に雰囲気が変わったりするものだ。
新井教諭も長年にわたって高校生を見続けてきて、そういう状況にも慣れているはずだが
この有川将臣を前にすると、新鮮な感動を受けるのだった。



   (何をどうすると、こうも急に雰囲気が大人びるのかしら?)







   「俺に1つ、いい考えがあるんだけどな」



新井教諭はハッと我に返って聞き返した。



   「いい考えって?」



   「望美の暴発を、ま、あいつが意図してやってる訳じゃ無いんだけどな、そいつを防ぐ方法」



   「あるの!」

   「できるの!」



思わず叫んだ家庭科教員2人の言葉に、彼女達の切実さがうかがえる。



   「俺はあいつの料理を、こ〜〜んな小さい頃から間近で見てきたんだからな」



   「幼なじみなの?」



   「イエース」



   「か、春日さんて、お家でも料理とかするの?」



   「意外か?」



   「え? ええ、ま、まぁ…」



   「だろうな。で、そんな俺にとっておきの秘策があるんだけどな」



   「どんな?」



   「OK、聞きたいか?」











   「ということで、今回の家庭科の調理実習は、1年生との合同授業となります」



驚きの声を隠せない2年生だった。特に6組の生徒は、まだ2ヶ月も経っていない12月の事を思い出し、
あの状況の再現と、更にはその状況に1年生を巻き込むかもしれない事態を考えると、
笑えるような、緊張するような、何とも言えない気分に襲われた。



   「どこのクラスとどこのクラスの合同になるのかは決まっているんですか?」



   「ど〜せ、2−1と1−1、2−2と1−2って、体育祭と同じ形式の縦割りだろ」



   「残念ながら時間割の関係で、体育祭のような組み合わせにはなりません」



   「じゃあ……、どこのクラスとですか?」


   「2年6組このクラスは1年3組とになります」



   「あれ? 譲君のクラスだ」



暢気に望美は、そう思った。











   「合同授業さ」



   「合同授業?」



   「という名目で、弟の譲を望美のお目付役にしておけば、万事OKだ」



   「それだけで?」



   「ラッキーだろ?」



   「どうして1年3組の有川譲君なの?」



   「俺と譲はあいつの料理したものを、それこそオママゴトの頃から食わされて来たからな」



   「?」



   「分からないか? 極楽寺の有川家とか春日家が爆発した、なんてニュース聞いたことないだろう?」



   「あ!」



   「気が付いたみたいだな。そういうことさ」



   「それが譲君だと」











   「ということで、今回の家庭科の調理実習は、2年生との合同授業となります」



驚きの声を隠せない1年生だった。誰もが、まだ2ヶ月も経っていない12月の事を思い出し、
あの状況の再現と、更にはその状況に1年生じぶんたちが巻き込まれるかもしれない事態を考えると、
頭を抱えたくなるような、それでいて恐いもの見たさの気分もして、何とも言えない気持ちに襲われた。



   「どこのクラスとどこのクラスの合同になるのかは決まっているんですか?」



   「ど〜せ、2−1と1−1、2−2と1−2って、体育祭と同じ形式の縦割りだろ」



   「残念ながら時間割の関係で、体育祭のような組み合わせにはなりません」



   「じゃあ……、どこのクラスとですか?」


   「1年3組このクラスは、2年6組とです」



1年3組一同は、一番聞きたくなかった2年のクラスナンバーが告げられ、驚愕した。

ただ一人だけ



   「やっぱりね……。まったく兄さんの奴…」



昨日からの将臣の妙な素振りに譲は溜息をついて、
自分の置かれた立場と、何をしなければならないのかを瞬時に理解したのだった。











09/07/25 UP

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